「一度、王になればつねに王。だが、ナイトは一度きり」

ロシアから愛をこめて

はじめに
この作品で、フレミングはボンドにケリをつけたかったという説がある。どうかなぁ?思う訳。いわば結末はリドル・ストーリーになってて、ボンドは死んじゃったのかなという感じ。たいていこういうのって、多くの作家がやってるように、シリーズに自信を持ってきた時に使う常套手段か、続けたいのに出版社に打ち切られたときの戦略かどっちかだったりして。本書も前半の1/3をスメルシュの解説に費やし、タイプ・ライターの指が踊ってるぞって言うのが解るくらいに楽しそう。おもいっきり暴走してますよ(笑)マニアでない限りこの1/3を乗り切るのは至難の業だぞ。で、昔、ファンと嘯く人はこの本も愛読書だというんですわ。映画と同じと思ってるんですね。この1/3を本文に組み込む構成であったなら、シリーズ1の傑作になり得たかもしれない。んな野暮用に時間を浪費したくないんだっ。一番脂の乗ってた時期だったんでしょうね。

ストーリィ
シーロフ国防会議議長陸軍大将の要請によって、スメルシュ(当時KGB第十三課)の長官グルボザボイスチコフ大将は、ソ連の国防関係の将校を集め、緊急会議を開いた。最近相次いで起こったソ連のスパイ検挙に対する報復処置として、何を実行するかである。西欧諸国の情報部の中心機関をの心臓部を狙ったものでなければならない。世間に知られなくてもいいが諜報の世界で物笑いになるようなものである。
標的は過去にスメルシュとかかわりのあった英国情報部のジェイムズ・ボンド。死刑執行礼状は「辱めて殺すべし」
作戦指揮官にローザ・クレッブ、計画立案にクロスティーンが選出される。

ピンクのヒロイン
タチアナ・ロマノーヴァ
国家保安省の伍長。名前からも解るようにロマノフ家の遠縁でもある。昔のボーイフレンドはグレダ・ガルボを若くしたようだとその容姿について語っている。胸も顔も非の打ち所もないが、尻だけは運動のため男みたいな尻になっているということ。クロスティーンが立案した暗殺計画に必要な「信頼できてすごく美しい娘」の条件をみたす囮として選ばれた。
クレッブはタチアナに嘘の作戦命令を与える。亡命を偽ってイギリス人スパイを誘惑し、ともにイギリスに行き、嘘の情報を流す、やがて捕虜収容所があるカナダに護送されるがそこで救出される・・・と。
彼女はイスタンブールのT局主任に接触する。
資料課でイギリス人スパイの資料を見ているうちにボンドの写真に惚れてしまったという。自分をボンドと共に亡命させてくれるのなら、英国が長年欲しがっていたスペクター式暗号解読器を盗み出してくると。
普通なら信じないだろうが、T局の主任、ダーコ・ケリムはやり手で冒険好き。罠と知ってその話に乗った。
そしてMもまた、スペクター・マシンを入手できるチャンスなら、賭けに出てみる価値もあるだろうと判断した。
ボンドはイスタンブールに飛ぶ。

黒い悪党
ドノヴァン・グラント
通称レッド(赤い)グラント。この男の大きな特徴は臀部に未開発の尻尾があるということだ。女が欲情するくらい素敵な肉体なのに、なぜか嫌悪を持ってしまうのは、この肉体を拘束している組織に対する恐怖だろう。そう、彼はスメルシュの主席執行官である。満月の頃になると異様に激しい殺人衝動を覚え殺人に手を染める。ボクシング、ライト・ヘビー級選手権を取ることにより英国特殊部隊にスカウトされるも、もっと人を殺せる環境へと、英国軍の機密を奪ってロシアに亡命する。
「私は人殺しが特技なんですよ。人殺しがすきでね」
グラントは英国情報部員ナッシュ大尉になりすます訓練を受ける。
パリへと脱出するオリエント急行に潜入し、ボンドとタチアナを殺し二人の情事を撮影したフィルムと、結婚してくれなければフィルムを新聞社に送るという手紙を現場に置いて行くというものだった。さらに現場に残された暗号解読には爆弾が仕込まれ、回収した情報部の内部で爆発するようになっている。
グラントを倒したボンドはマチスと連絡をとり、パリのリッツ・ホテルでグラントの報告を待つローザ・クレップの元へ行く。死闘の末ローザを拘束するが、靴先に仕込んだ刃に塗られた日本産フグの毒によりボンドは倒れる。


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